ー 19-3 ー
ウサギはぺたぺたと、道を歩いていく・・・。
アユムもところどころで遅れながら、その後を追った。
というのも、道の両側に立っている店のネオンサインを一つ一つ見ていたのだ。
それらは、意味のわからない言葉で飾られ、
しかし、
アユムにとってはなぜか素通りできない言葉の数々だった・・・・
「小鳥・・・、海の青・・・、水と風。
不死身の魔法使い、消えない魂。
なぜだろう・・・。ココロに引っかかる・・・・」
それは実はこれから先、ずっと後に、物語の先の先に存在する言葉達だったのだけど、
そんなことアユムは知る由も無かった。
「あなたに過去の幻を見せたのは私です・・・」
そんな中、ウサギは前を向いて歩きながらアユムに言った。
「弟子に頼まれましてね・・・。
とてもよい子なんですが、
私も彼の頼みは断れないんですよ。」
「弟子?」
とアユム。まずこんなウサギに弟子が居ることが不思議だったんだけど、それ以上にこのウサギが何を教えているのかがアユムには気になっていたり・・・。
し、しつれいな・・・。
(しかも、その弟子って、
ウサギの話からして、おれを見知っているんだよな。うーん?)
謎はますます深まるばかり。アユムはウサギの言葉を待った。
「あなたも知っているはずですよ?
やたら威勢が良くって人懐っこくて、頭の切れる子・・・・。」
ウサギはニヤニヤしながらアユムを見た。
「???」
あまりピンとこない様子のアユム。
それを見てウサギはついにこらえ切れなかったのかクックックッと笑い出してしまった。
「フフフ、あなたも頭が固いんですねぇ。
居るでしょう?いつも隣に・・・ケイという教え子が。」
「ぐわっ!」
アユムさん、本日二回目の悲鳴。というか、奇声。
「ケイだって??」
ウサギの肩(?)をガクガクと揺らす。
当のウサギは動じる様子も無く、綺麗な緑色の瞳を閉じてこう言ったのだった。
「彼はあなたにスカウトされて4日目に、一人魔法物質の実験をしていまして、
その中で偶然、ここにたどり着いてしまったようなのです。
そして、私と出会った・・・。
最初は大いに警戒されましたが、なかなか物分りの良い子で、
私の存在についてもなんとなしに理解を得たようです。
ただ、弟子にしてくださいって言われた時にはどうしようかと思いましたよ。
私が彼に何を教えることが出来るのか分かりませんでしたからねぇ・・・。
でも、何の事は無い。彼は知識を求めていた。
私は自分の知っていることを出来る限り彼に伝える・・・それで良かったのです。」
「うーん・・・・」
アユムはわけが分からなくなっていた。
聞くべきものが選択できないほどに、
物事は今までの彼の常識を打ち破ったものだった。
「私は彼に時間と次元の原理について教えています。
もっとも、私の言葉から、彼がどの程度理解を得ているかは視覚的に分かる訳ではありませんが、
私は、なかなか吸収が良いと思いますよ。」
アユムが何も質問しないのを良いことに、ウサギはべらべらと話を進める。
アユム自身、そんなウサギを放って置くつもりだったのだが、
次の一声は聞き捨てならないものだった!!
「しかし、彼は分かりすぎている。危険なほどに知識を吸収してしまっている。
その知識の性質が性質なだけに、
もしかしたら自己破壊を招くかもしれない・・・。」
「なんだと?」
アユムはウサギを睨み付けた。
ケイに何かあったら、ただでは済まさないぞ、といった感じで・・・。
「先ほど言ったように、私は彼に時間と次元のことを教えた。
そこで、特に時間についてなのですが、
私の教えたことを応用して、彼が未来の予測を行っているのではないか心配なのです。
それは、確かに普通の人間ならば、
のどから手が出るほど欲しい情報かも知れません。
しかし、行き着く先の未来が抜き差しならない闇に包まれたものであったとき、
そして、もし、ケイがそれを知ってしまったとしたら、彼はどうなってしまうのでしょうか?」
「は?」
話があまりに飛躍しすぎていて、アユムは理解に苦しんだ。
「ケイは確かに未来予測ができる。
しかし、それは10分足らず先のことだけなんだ。」
そんな先の未来を予測したという話は聞いたことが無かった。
少なくともアユムは・・・。
だから、皆勝手に思い込んでいた、
ー ケイにはそれ以上、不可能なのだ ー
と・・・・。
しかしウサギは反論した。
「そんなはずはありません。
未来の予測というものは自分が死に絶えるその時までのことなら、
まったく余分なエネルギー無しに予測できてしまうんです。
だから、もし、今のケイが未来予測を扱えるとすれば、
それは彼が未来を最初から最後まで知ってしまった可能性を否定できないということになります。」
「え・・・・」
アユムは身体が凍りつくのを感じた・・・。
いくら明るい未来だったとしても、それを知ってしまう事は非常に危険なことだ。
殊に、
アユムにとって、生きる原動力の大半は未来への好奇心であったから・・・。
アユムは身にしみて分かっていた。
未来を知ることの、
なんと絶望的なことか・・・・
「それは本当だろうな?」
アユムはとっさにウサギに聞いた。
すると、ウサギは首を縦に振って、
「はい。
しかも、私の見解からして、
彼は99%それを実行してしまったと思うのです。」
「でも、ケイにそんな変わった様子は見られなかったぞ」
心臓がドクドクと鳴っている。アユムに焦りの色が出始めた。
ウサギはそんな彼を静かに見つめながら、告白を続けた。
「彼は、だからこそよく出来た子なのですよ。
騒いでもしょうがないことが分かっているから発狂したりはしないのです。
あなた方に話しても、皆を不幸にするだけだと分かっているから、告げないのです。
半端なところで努力してしまっているのか、自分を押さえ込んで、
でも本当は、予測してしまった自分の死ぬ日が頭から離れないに違いありません。
確実に近寄る死の足音に、怯えているに違いありません・・・。
それこそ地獄ですよ。」
「でも、未来がひとところに決まるなんて、そんな事は無いだろう?」
「確かに。
しかし、可能性を予測できてしまうという事は、結局、彼の恐怖を拭い去ることにはならない。
この日に俺は死ぬのか、あの日に俺は死ぬのか、と考えてしまう。
彼はそろそろ、精神的に参ってきているはずです・・・。
だから、私はせめてと思い、彼の言う事はなんでも聞くことにしたんです」
「・・・・。
でも、さっきのことで、
ケイが99%未来を最後まで見てしまったとなぜいえるんだ?
そうじゃない可能性だってあるじゃないか」
と、アユムは出来る限り頭をひねって、ウサギの論理を捻じ曲げようとする。
しかし、ウサギは首を振った。
「言わずとも分かることですが、私にも未来が見えるのです。
だから分かる。
彼の行動は、あなたを運命的に幸せな方向へと導くもの。
あなただけではない。出来るだけ多くの人が幸せな方向へと進むように、
彼は知らずのうちに行動しているのです。
それは未来が分かるからなせる業。
私が見る未来と彼が見る未来は同じ物のはずですから、それくらいは分かります。」
「う・・・」
なんか、返す言葉が無かった。
今度、ケイにあったらなんて言ったら良いのか、分からない。
ウサギの言うことが本当かどうか定かではない、それだけが唯一にして最大の救い、
という感じだった。
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