− 17 − ドラウンA
途方もないユメだった・・・
それは今見ている幻想であり、
・・・過去に目指した希望であった・・・・。
アユムは半ば途方にくれながら思考した。
(一体この幻影を見せているのは誰なのか?
それよりも、何のためにこんなものを・・・?)
ザー−ザーザー−−−−
おなじみの雑音に混じって水の音がする・・・。
今度は細切れの雨だった。
アユムはそんな中、マーメイド像の前で腕時計を見ながら突っ立っている。
よく分からないけど、自分が誰かを待っているらしいことは分かった。
(俺は、誰を待っているんだろう・・・?)
端から聞いたら変な質問だけど、言うまでもなくアユムは大真面目だった。
みると喫茶店マーメイドのショウウィンドウに自分の姿が映りこんでいる。
(みたところ、退院後の年齢みたいだな、俺。
中学一年生のときかな・・・?)
でも、雨の中で待ち合わせというと、たくさん思いつきすぎて、いつのことか特定できない。
しかも時計は3時7分を回っていた。
「ふつう3時きっかりに待ち合わせしないか?
だとすると、相手は遅れていることになる・・・」
アユムはブツブツと考察を繰り返した。
そう、普通だったら待ち合わせは3時とか3時半とかきっかりした時間にするはずである。
それなのに今は3時7分。半端すぎる。
待ち合わせが3時10分という可能性も考えられたが、
自分が待ち合わせ時間より早めに来るタイプではないことを知っていたアユムは、
その可能性をあっさり切り捨てたのだった。
とにかく、
相手は待ち合わせに遅れているのだ。
ユイカは2、3分遅れてきたとしても、7分も遅れる子ではなかったような気がする。
それなら、考えられる可能性は一つだった。
「よお、キリハラ・・・。
待ったかい??」
果たして、相手は15分後に現れた。
雨の中、傘も差さずに走ってきたらしく、顔も服もびしょぬれで、息はひどく上がっている。
「ショウゴ。どうしたんだ?」
アユムは目を丸くして彼に尋ねた。
そう、待ち合わせの相手は、月読 章吾(ツキヨミ ショウゴ)。
彼は小学6年生のときのアユムのクラスメイトであり、
アユムのもっとも苦手とする人物だった。
「いやさ。
寝坊しちまってよぉ。急いで来たんだが、傘を忘れてこのザマさ」
と、ショウゴはいつもの調子で、アユムを濡れた手でばしばしと叩いた。
「う・・・」
ひるむアユム。
(ちぇ、なんだってこいつが・・・!)
アユムはそう心の中で密かに思いながらショウゴに傘を半分かけてやった。
「わりい」
ショウゴは綺麗な声をしていた。
顔だってそんなに悪くない・・・。ただ、言動と行動にクセがありすぎるのだ。
今だってそう。
3時まで寝坊してみたり、傘を忘れてきてみたり、とにかくその行動は奇抜極まりなかった。
(ああ、そうだ・・・。
こいつはこんなヤツだったよ・・・・)
アユムは頭を左右に振りながらため息をついたのだった。
落ち合った二人は、暗い街道をぶらぶらと歩いた。
時にこづかれ、時に笑い飛ばされながらアユムはショウゴとの会話を楽しんでいた。
(・・・懐かしい・・・)
アユムは人知れず思った。当時よりも成長した今の心だから理解できることが沢山だった。
(ショウゴは目立った行動で、人の目を引きたかったんじゃないだろうか・・・)
アユムは彼のことをそう考えることが出来るようになっていた。
(彼の周りで何かあったのかもな・・・。
・・・自分が否定される何かが。
だから、クラスメイトの気を引こうと・・・・?)
アユムは泣きそうになる自分に気が付いた。
(俺なんか、幼稚園の時から一緒だったから、格好の話し相手だった訳だ・・・)
くやしい・・・。アユムは、後悔した。
(もっと、当時の彼の言動に耳を傾けるべきだった・・・。
もし、本当にこいつが寂しい目に合っていたら・・・。俺はやるせないよ)
ショウゴの言動は元気が良いくせに抑揚があまりなくて・・・。
どこかおそれているようだと思った。
話し相手の反応が返ってくるかが不安な、そんな畏れの響きだった。
(確かそんなやつ。今でも居たな・・・)
やたら明るく話すくせに、どこか一歩身を引いているその響き。
ケイ・・・。
アユムは一歩一歩を何気なく踏みしめながら思う・・・。
だから、
今言わねばならぬのだ。
「ショウゴ。友達だよ・・・。おまえはきっと俺の友達だ」
現実ではないと分かっていたので、調子に乗って言ってしまった。
現実の過去では言わなかったのだ。
それなら今言わないでどうする?
風は吹きすさび、雨は強くなり、
傘はババババッと時折音を立てる。
長い間の後、
ショウゴは人懐っこそうな顔をアユムに向けた。
雨の中、オームバックの髪は水を含んで顔に垂れている。
「そうだなあ・・・。俺達は友達よぉ・・・。」
そして、アユムの傘からふいっと飛び出すと、背中越しにアユムに告げたのだった。
「友達が居れば怖いものなんて何もない・・・。
つまりは、友達と呼んでくれるヤツが居れば俺にとって怖いものは何もない・・・。
俺はそう思っていたところなんだ・・・。
・・・・ありがとよぉ、キリハラ」
そんな彼は雨の中、まぼろしの様で、
ぼやぼやとして、くすんで見えた・・・。
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