ー 22 ー ケイとヒトと・・・
ココは自分よりも6歳も年下だけど、
知り合いの中では一番勘が良いように思える・・・。
それは、正しく言えば、鋭い勘プラスそれを生かせる行動力があるということだ。
例えば、アユムさんやシュンは勘は鋭いが、
それから「真実を引き出す行動」にでるまでに多少の時間がかかる。
しかし、ココは違う。
彼女は、彼女の勘が冴えているうちにそれを真実に結び付けようとするから、
それだけ真実に出会う機会が多くなる。物事に気がつきやすくなる・・・。
だからこそ自分にとって、ココという子はとても貴重な人物だと思う。
どうも、他人に悟られるべき所を悟ってもらえず、
苦い思いをする自分に。
「どうしたんですか?
ケイさん、最近調子悪いですね・・」
ケイは、いきなり声を掛けられたような錯覚を受けた。
でも、そんなはずあるわけないのだ。
だって、彼は今さっきからココと一緒に歩いているのだから。
「え・・・?
ああ・・・少し寝不足みたいなんだ・・・
あと、どうも食欲が湧かなくてね・・・」
と、ケイはぶつぶつと抑揚の無い声で答えた。
その顔はなんかボーっとしているようで頼り無い感じだ。
今、彼らはシュストーユを離れて、集合場所である『ミドリノタイイクカン』に向かうべく、
駅へと歩いている所である。
「ケイさん、病気なんですか・・?」
ココが眉をひそめて訊くと、
ケイは少しだけココの方に顔を向けて首を振るのだった。
「たぶん違う・・・
でも、暇な時にでも病院に行くよ。
なにか身体に不調をきたしているみたいだから」
体はだるくて、
頭の中はモヤがかかったかのようだった。
おまけに顔はボーっと熱くて、のどもカラカラするし、
ケイ自身も、かなり自分の体調には危機を感じているところだった。
しかし、彼には分かっている・・・。
これが病気なんかではなく、単に寝不足と栄養不足によるものであると。
そして、この状態はこの先解消されるどころか
悪化していくだろうことも・・・。
これは、彼だけに分かる事だった。
「とにかく、心配無用ってわけだよ・・・。
それよりも、ココちゃんこそ怪我とか無い?」
ケイが安心させるようにやんわりとそう言うと、
ココはハッとした顔になって
「あっ、そうだ!
私、ヒトさんに背中を殴られたんだった!」
と自分の背中をぺたぺたと手で触ったのだった。
そう、彼女はシュストーユからあと少しで脱出できると言う所で、
背後からヒトに殴られたのである。
しかし、次の瞬間はたとその仕草をやめると、
どうもおかしいというように小首をかしげたのだった。
「どうかしたの?」
とケイもいぶかしげな視線を送る。
ココはそれには応じず、自分の背中を今度はげんこつでぐいぐいと押した。
そして、それもぱたりと止めて、
今度はふるふると、首を横に振ったのだった。
「あ、あれ・・・?
ぜんぜん痛くないです・・・」
「はぁ??」
ケイが目を不思議そうに瞬かせると、
ココは困ったようにさらに首を振った。
「そんなはず・・・。
さっき確かに、ヒトさんに背中をバシィ!!ってやられたような気がしたんですが、
押しても痛くないところをみると、アザにもなっていないようです・・・。
・・・おかしいな・・・。
本当に強く殴られて、そのときは痛さで息が止まりそうになったんですけど・・・」
「へぇ、・・・そんなことが・・・。
ヒトって出会うたびに解らなくなってくるなぁ。」
と、ケイも自分の前髪をなでながらため息をついた。
なんか、すこしずつ自らの体調が回復していくのを感じながら。
「そうだ、一応訊いておきたいんだけど、
ヒトってどんな人物だった?
会ったんだよね?」
と、ケイは間髪いれずに質問した。
そう、聞くなら今のうちなのだ。
自分が考えていられるのはこの時間なんだから・・・。
一方、ココのほうはそんなケイの思惑など知る由も無く、無邪気に笑うのだった。
「外見は・・・ケイさんも前に目撃したかもしれませんが、
そこら辺にいそうな学生って感じでした。むしろ、優等生タイプというか・・・。
髪は黒くて普通にカットされた感じで、
服も黒っぽいのを着ていましたけど、それも浮く感じではありませんでしたね・・・。」
「そっか・・・。俺が見たときもたしかそんな感じだった。」
と、ケイも頷きながら小さく笑った。
そう、
彼はちょっと前にヒトに遭遇したことがある。
それはシュストーユに初めて彼が侵入してきた時だったけれど、
その時もヒトは銃をちらつかせたり、空を飛んだりしてやっぱり訳の分からないやつだった。
だから、
次のココの言葉にもさして驚かなかったのだ。
「見つかってからしばらくの間、追いまわされたんですけど、
その時の動きが凄く俊敏で、なんか人間じゃないみたいで・・・、
とにかく恐かったです」
「えっと、それって・・・
具体的にはどういう感じだった?」
だから、ケイは自分が出会ったときとどう違うかを確かめることにしたのだ!
しかし、ココが次に言ったことは、
ケイが予想していたよりももっとインパクトのあるものだった。
「えっと、バック転とか宙返りとかを軽々こなしたうえ、
私が気がついたら木の上にいたりとか、そんな感じです」
「な、なんだそれ・・・」
ケイの中で、今まで頭の中にあったヒト像がどんどん変形していく。
(あいつの考えなんて、全く読めん・・・)
一方ココのほうはそんなケイの思考にあわせるように、
今度はペースを少し落として話し始めたのだった。
「あと・・・、
声は冴えない感じで、なんか怪しいことをボソボソと言って来ました。
『ゲンショクセツ』がどうとかって言っていましたが、
よく意味が分からなかったです。
というか、本人も意味がわかっているのかどうかよく解りませんでした。」
「へぇ・・・。ゲンショクセツ・・・ね。」
と、穏やかに頷いていたケイは、
徐々に眠そうな表情になって、
どうもその後の反応というか・・・動作が無くなってしまった。
「ケイさん・・・?」
と、ココが不安げな声をあげるが、
それでもケイは動かなかった・・・。
「気分・・・わるい・・・・」
そして次の瞬間、そう告げたかと思うと、
人形の糸が切れたように、黒光りするアスファルトに向かって倒れてしまったのだ!
「・・・ケイさん!?」
倒れた彼の頭部の下からは・・・
ジワジワと赤い液体が染み出していた・・・。
ーあの時、 ・・・タイムマシンに興味を持ったのがいけなかったんだ、きっと・・・ー
次へ→