ー 4 ー    施設シュストーユ

今はもう夜。
センター街は当然ながらどの店も閉まっていて、歩く人影もたった二つだけだった。
そう、「キリハラ アユム」と、「ショウノ コスミ」こと私である。

「ねえねえ。本当に私、人造人間なの??」
私は、アユムに、シュストーユに向かう道中聞いてみた。
と、それを聞いたとたんアユムはなぜか奇声(?)を発した¥
「ぐえっ!やはり信じていなかったのですか?」
「「ぐえっ」ってそんな、当たり前だよ。
 普通信じないと思うけどなあ・・・。」
と、私。
アユムはややあきれた顔をしてこう言ったのだった。
「何をいまさら・・・。
普通ではないのは自分でも認識済みのことじゃないのか?」
「え・・・?」
私が普通の人と自分が異なるということを認識・・・している?
どこがどういう風に異なるというのだろう?
いえ、その前に
どんな方法で認識していると言うのだろう?
大体何を?
うう、混乱してきた・・・。
と、そんなふうに私がぐるぐるとやっていると、
アユムは至極面白そうな顔をしてこう言った。
「普段、きみと言う存在は周りに溶け込むことが出来るように行動するはずだった。
 しかし今はそうではない。だから君も認識していると思っていた。」
毎度のことだけど、わけが分からない。
アユムは、さっきまでそっぽを向けていた顔を私のほうに向けながら続ける。
「しかし、それさえ認識できていないとしたら、
 脳の回路配線もほつれていると見たほうがいいな・・・。」
そして、さっき私に沢山の質問をしたときの答えを書き付けていたメモ帳を、
すばやく取り出して、ボールペンでなにやら記録し始めた。
まったく私の存在など無視である。
「あの、さっきから何をいっているんですか?」
しびれを切らして私が問い尋ねると、
アユムはメモ帳から顔をあげて
「今までの私の言葉から推測してください。」
と、いかにも取り込み中と言わんばかりで、
すぐに顔をメモに戻してしまった!
な、なんて感じの悪いやつ・・・!!
それなら!こちらにだって手があるんだから・・・!
「やっぱり行くのやめます。」
私は冷たく言い放った。
すると、アユムはやっと私のほうを向いてちょっと驚いた顔をする。
「本気ですか?」
こくりとうなずく私。
ここでうろたえてくれると私のイライラも収まったと思うけど、
そこはアユム。
やっぱり涼しい顔だった。
「分からないのか、ふう。
 説明に時間を割かなければならない俺が哀れだな。
 だからつまり、きみは故障しているのだよ。」
「こ・・しょう?」
私はびっくりした。
自分が故障しているなんて・・・。
それに何より、こんなことを言うくらいだから、
さっきアユムの言った「人造人間」という言葉は本当な気がしたのだ。
そんな私の様子を見て、アユムはその歩みを緩めながら言った。
「例えばテストだ。普通なら100点はそんなに取らないことになっている。
 なぜなら、そんなに100点ばかり取っていたら怪しまれるからだ。
 もちろん、運動においても完璧すぎてはいけない。
 ・・・そしてよく転ぶことも。
 時たま脳部分との交信が途絶える、イコール運動神経回路の老朽を意味する。
 それに他に質問したことだってすべて異常が確認できているんだ。
 きみには修理が不可欠。
 しかも、今放って置いたらいずれ無化される・・・。
 俺か俺の同僚の研究者によってな・・・。
 順当に行って俺だが・・」
と、ここまで言って、言葉をにごした。
「無化?」
と私。アユムは目をつぶってため息をついた。
「はっきり言えば「消される」ということだ。
 調子がよければ善し、故障ならば悪し・・・。
 すべては単純明快に出来ている。」
「つまりは故障を直さないと破壊されてスクラップにされるってこと?」
「まあ、そういうこと」
アユムはそっけなく言った。
でも、私にはいまいちピンと来ないんだよね・・・。
「なぜ?なぜ故障がいけないの?
 故障したからって壊す必要があるの・・・かな」
とおそるおそる聞いてみる。
すると、アユムは瞳をぎらつかせながらも
声は静かにこう告げたのだった。
「考えの甘いヤツめ。
 故障は時に暴走を意味する・・・。
 よって、不良品は捨てる。
 その観念はきみにも分かると思うが・・・」
言われて
私はゴミのようにバラバラになった自分を想像してみようとした。
でも、無理だった・・・。
なぜか、想像することさえ出来なかった。
その時ふとアユムのほうを見ると、
彼はいつのまにか
「マーメイド」で見せた暗くて悲しい表情をしていた。
彼はブツブツとこう言った

「自分のことを考えてはいけない・・・。
 もし・・・、
 自分で自分自身を否定してしまったら・・・苦しくて生きてゆけないから・・・」

彼の目はゆらゆら揺れていて、私はびくっ・・・となった。
アユムのこの言葉は、
今まで言ったコト、これから起こるコト、
すべてを表わしているような気がしたから・・・
そして、
私は知っているはずだった。
「自分で自分自身を否定する」と言うことの意味を一番良く知っているはずだった。
でも、私には思い出すことなどできない・・・。
なぜなら「今の私」にはその記録自体残っていないのだから・・・

無を取り出すということがセイリツしないのと同じで、
私が無い記録を手に取り出すことは、
はたして、
・・・・なかった。


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